見上げてください。この看板は、印刷ではありません。人が、手で描いています。 映画の看板を手描きでつくるのは、かつてどの街でも普通の仕事でした。印刷のポスターが安くなると、すべての街から消えました。ここだけが、やめませんでした。…
見上げてください。この看板は、印刷ではありません。人が、手で描いています。
映画の看板を手描きでつくるのは、かつてどの街でも普通の仕事でした。印刷のポスターが安くなると、すべての街から消えました。ここだけが、やめませんでした。
広げた布に、チョークであたりをとり、油性の絵の具で一気に塗っていく。上映が終われば、その上に白を塗って、次の作品を描きます。一枚の布の下に、何十本もの映画が重なっています。
この映画館に、学校をサボって通っていた少年がいました。のちに監督になる李安。本人が後年、ここで映画を覚えたと語っています。
洋画を二本立てで安く見せる、二輪上映の小さな小屋でした。新作を一番に見る場所ではなく、見逃した人があとから行く場所。
看板を描いてきた職人は、弟子をとっています。仕事としては合理的ではないのに、継ぐ人がいる。
今掛かっている作品は、いずれ白く塗りつぶされます。写真を撮るなら、今しかありません。