屋根がありません。あるのは、屋根の形をした根です。 手前の白い洋館は、德記洋行。十九世紀に、イギリスの商社がここに構えた事務所です。清朝が開港を迫られたあと、樟脳や茶や砂糖が、この港から世界へ出ていきました。安平が世界地図の上にいた、最後の時期です。 その裏にあるのが、倉庫でした。…
屋根がありません。あるのは、屋根の形をした根です。
手前の白い洋館は、德記洋行。十九世紀に、イギリスの商社がここに構えた事務所です。清朝が開港を迫られたあと、樟脳や茶や砂糖が、この港から世界へ出ていきました。安平が世界地図の上にいた、最後の時期です。
その裏にあるのが、倉庫でした。
港が使えなくなり、会社が去り、倉庫は放置されます。人がいなくなった建物に、榕樹が入りました。
榕樹は、幹から気根を垂らします。垂れた根が地面に届くと、そこから太くなって、新しい幹になる。壁の隙間に入り、屋根の割れ目に入り、内側から広がっていく。人がつくった直線を、木がゆっくり選び直していきました。
壁のそばに立ってみてください。天井のあたりから、白っぽい根が何本も下りてきています。 触れられるものがあれば、触ってみてください。木の幹より、少し冷たいはずです。
この建物は、壊れかけたのではありません。使われなくなったあと、別の生き物に使われはじめた、というだけです。
人が手を引いた場所で、何が起きるのか。その答えが、いまあなたの頭の上にあります。