干潟はカニたちの世界

干潟はカニたちの世界

源流から始まった浦の川の長い旅は、河口近くで大きな支流と合流し、その下手で見事な干潟を形成して、完結します。干潟は、森で生まれた淡水が、海から満ちてくる潮と静かに出会う場所です。一日に二度、潮が満ちて引いていく。そのたびに、ここの水の塩分は刻一刻と変わっていきます。海でもない、川でもない。その中間にある、揺らぎ続ける世…

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源流から始まった浦の川の長い旅は、河口近くで大きな支流と合流し、その下手で見事な干潟を形成して、完結します。干潟は、森で生まれた淡水が、海から満ちてくる潮と静かに出会う場所です。一日に二度、潮が満ちて引いていく。そのたびに、ここの水の塩分は刻一刻と変わっていきます。海でもない、川でもない。その中間にある、揺らぎ続ける世界。この曖昧さこそが、信じられないほど多くのいのちを育てているのです。 小網代の干潟には、日本各地で絶滅危惧種と指定されているレベルの希少生物が100種以上も記録されています。面積3ha規模の小さな干潟ですが、単位面積当たりの希少種の密度は、全国視野でみても、おそらく突出する状況とおもわれます。 その小網代の干潟の、一番の人気者は、たぶん、ダンスをするチゴガニでしょう。春から夏にかけて、潮が引いた泥の上に、無数の小さな穴が現れます。その穴のわきには、1㎝前後の小さなカニがいて、しきりに爪を上下するダンスを踊っているはずです。ダンスを踊っているのは雄ガニ。足元の巣穴に、メスを呼ぶための、求愛ダンスを踊っているのです。チゴガニたちのダンスは、好天なら、エサをとる時間も惜しむように、潮の引いている時間いっぱい続くのです。 チゴガニがダンスを繰り広げる泥地には、少しのんびりと、でもチゴガニたちと似たダンスをするコメツキガニたちもくらしています。少し干潟の中央部を遠望すると、澪筋の周辺で、大きな爪をゆっくりとふるヤマトオサガニやオサガニたちの姿もあるかもしれません。 残念なことに、チゴガニを除く他のカニたちは、今、生息数を大きく減らしてしまいました。2011年の大津波のおり、干潟を襲った引き波が干潟の泥を大量に持ち去ってしまい、カニたちの世界は大攪乱されているのです。いま、ようやく、賑やかな回復を遂げてくれているのが、チゴガニたち。かつてのカニたちの賑わいが戻るのは、あと10年、いや20年かもしれませんが、その日が必ずやってくることを、チゴガニたちの賑やかなダンスが告げてくれてもいるのです。 干潟の辺縁の真夏は、森のカニ、アカテガニの母ガニが、おなかに抱えたゾエア幼生を、海に放す場所でもあります。 森で暮らすアカテガニの雌たちは、海で育つ幼生を海に放す時間を決めています。6月末から9月末にわたる、満月と新月の前後数日。子どもたちを海に放す準備のできた母ガニたちは、干潟の縁にあつまり、日没後30分前後をめどに、一斉に海に入って、ゾエアとよばれる幼生たちを波に放すのです。幼生たちは奥行1kmをこえる小網代湾の暖かい海をただよってひと月を暮らし、メガロパと呼ばれる幼生に変態して、ふたたび干潟の縁にもどり、変態して稚ガニとなって、森に帰ってゆくのです。 場所: 浦の川河口の干潟(面積約3ha・淡水と海水が混ざる汽水域) 特徴: 1日2度の干満で塩分が変化/絶滅危惧レベルの希少生物が100種以上 主役: チゴガニ(求愛ダンス)、コメツキガニ、ヤマトオサガニ、オサガニ 関連: 真夏にアカテガニの母ガニが幼生(ゾエア)を海へ放つ場所 課題: 2011年の津波で多くのカニが激減し、いま回復の途上 所在地: 神奈川県三浦市三崎町小網代 地図: 小網代の森マップ 公式サイト/Official Site: 小網代の森(神奈川県) 原稿監修 : 岸由二 (慶應義塾大学 名誉教授) 写真 : 柳瀬博一 (東京科学大学 教授) プロデューサー : 太刀川英輔 (NOSIGNER代表・慶應義塾大学特任教授) 発行 : NOSIGNER・NPO法人 小網代野外活動調整会議

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