夏の入り口、湿った草地の縁に、淡いオレンジ色の花がぽつり、ぽつりと開いていく季節があります。ノカンゾウやヤブカンゾウと呼ばれる、この土地に古くから根を下ろしてきた在来の花カンゾウです。その花は、朝に開いて、夕暮れには静かに閉じ、たった一日でその役目を終えます。英語でデイリリーと呼ばれるのも、この一日花の性質からきていま…
夏の入り口、湿った草地の縁に、淡いオレンジ色の花がぽつり、ぽつりと開いていく季節があります。
ノカンゾウや
ヤブカンゾウと呼ばれる、この土地に古くから根を下ろしてきた在来の花カンゾウです。その花は、朝に開いて、夕暮れには静かに閉じ、たった一日でその役目を終えます。英語で
デイリリーと呼ばれるのも、この一日花の性質からきています。一つの花は短くても、株はいくつものつぼみを抱えていて、毎朝、新しい花を咲かせていく。だから草地は、ひと夏のあいだ、入れ替わり立ち替わり、やわらかなオレンジに彩られ続けるのです。想像してみてください。何百年も前、この流域に暮らした人々が、同じ花を見上げていた光景を。花カンゾウは、ただ美しいだけの花ではありませんでした。若い芽やつぼみは食用になり、おひたしや天ぷらとして、季節のごちそうになってきました。
金針菜(きんしんさい)と呼ばれる乾燥させたつぼみは、今も料理に使われています。美しく、そして美味しい。この花は、人の暮らしのすぐそばで、長い時間を生きてきたのです。けれど、こうした在来の花カンゾウが、当たり前に咲ける場所は、少しずつ減ってきました。湿った草地が乾き、外から来た植物に覆われると、彼らはそっと姿を消してしまう。
小網代の森で、源流から海へと続く流域がまるごと守られているからこそ、この花たちは今も毎年、同じ場所で目を覚ますことができるのです。あなたがこの一行を読んでいる今も、夏が来れば、その草地で一輪の花が朝を迎え、夕暮れに静かに閉じていきます。短い一日を、何度も、何度も繰り返しながら。この花は、あなたがここを離れたあとも、来年の夏も、同じ場所でそっと開き続けています。
和名: ノカンゾウ/ヤブカンゾウ(在来種の花カンゾウ)
英名: デイリリー(Day Lily/一日花)
開花期: 初夏〜夏(おおむね6月〜8月)
花の特徴: 朝開いて夕に閉じる一日花、淡いオレンジ色
利用: 若芽・つぼみが食用、乾燥つぼみは「金針菜」として利用
生育環境: 日当たりのよい湿った草地
保全上の意義: 湿地草地の乾燥化・外来種被害で生育地が減少
所在地:
小網代の森(神奈川県三浦市)
公式サイト/Official Site:
小網代の森(神奈川県)