赤レンガの回廊が途切れる場所で、人々は不思議と足を止めます。言葉を探すのをやめ、ただ、そこに立ちつくす。一本の老いた菩提樹が、地面を這う指のような根で何かを抱いているのが見えてくるのは、しばらく経ってからです。…
赤レンガの回廊が途切れる場所で、人々は不思議と足を止めます。言葉を探すのをやめ、ただ、そこに立ちつくす。一本の老いた菩提樹が、地面を這う指のような根で何かを抱いているのが見えてくるのは、しばらく経ってからです。
砂岩で彫られた
仏陀の頭部。それが、根の間に収まっています。伏し目がちな面立ちは、怒りも嘆きも帯びていない。ただ、途方もない時間をくぐり抜けた者だけが持つ、深く静かな落ち着きがそこにある。 壊されたはずの顔が、いま、命あるものに包まれている。
なぜ仏頭がここにあるのか、確かなことは誰にも分かりません。
[1767年](https://woud.io/ayutthaya/ja/ayutthaya_12)、
ビルマ軍がこの王都を焼き払ったとき、無数の仏像が打ち倒され、首をはねられました。地に転がった頭部のひとつを、芽吹いたばかりの菩提樹がゆっくりと根で抱き上げていった——そう言い伝えられています。何十年、何百年という時間をかけて。
菩提樹は、仏陀が悟りを開いた樹です。その同じ種類の樹が、人の手を一切借りず、ただ生きることだけで、破壊された仏の顔を持ち上げた。憎しみが一夜で壊したものを、命が三百年かけて抱き直した。
[ワット・マハタート](https://woud.io/ayutthaya/ja/ayutthaya_9)は、かつてこの王朝の信仰の核でした。王たちが祈り、聖なる遺物が祀られ、海を越えた巡礼者が訪れた場所。その栄華が灰になった後も、この樹だけは何も語らず、ただ仏の顔を手放さなかった。
壊すことに、理由はいりません。でも抱き直すのに、三百年かかる。この静けさの重さは、たぶんそこにあります。
場所:
ワット・マハタート / Wat Mahathat(アユタヤ歴史公園内)
建立: 14世紀後半(アユタヤ王朝初期)
見どころ: 菩提樹の根に抱かれた砂岩製の仏頭、煉瓦造の仏塔群と回廊
歴史的背景:
1767年のビルマ軍によるアユタヤ陥落で
多くの仏像が破壊された
所在地:
アユタヤ歴史公園 地図
注意: 仏頭を背に記念撮影する際は頭を仏頭より低くするのが礼儀とされる
公式サイト/Official Site:
Tourism Authority of Thailand
Photo: Dominic Trier /
Unsplash (unsplash)