水が、空の色を映している。チャオプラヤー川の西岸、夕暮れが近づくと、川面はゆっくりと橙に染まり、その上にワット・チャイワタナラームの影が長く伸びていく。中央に高くそびえる一基のプラーン――トウモロコシの穂のように先細る、クメール様式の尖塔。それを囲むように、八つの小さな塔が静かに立っている。…
水が、空の色を映している。チャオプラヤー川の西岸、夕暮れが近づくと、川面はゆっくりと橙に染まり、その上に
[ワット・チャイワタナラーム](https://woud.io/ayutthaya/ja/ayutthaya_16)の影が長く伸びていく。中央に高くそびえる一基のプラーン――トウモロコシの穂のように先細る、
クメール様式の尖塔。それを囲むように、八つの小さな塔が静かに立っている。
この寺院が築かれたのは
1630年、王の名のもとに。中央の塔は宇宙の中心にそびえる聖なる山を、周囲の八基はそれを取り巻く世界を象(かたど)るとされた。煉瓦を積み、漆喰で覆い、その壁面には仏伝の浮彫が刻まれていた。建てた職人たちは、自分の積んだ一段が、王の祈りと宇宙の秩序そのものを支えているのだと、どんな思いで手を動かしていただろう。
興味深いのは、回廊にかつて並んでいた
仏像の列だ。漆喰で形づくられ、金箔をまとい、参拝者を見下ろしていた。今は多くが首を失い、胴だけが座している。
[1767年](https://woud.io/ayutthaya/ja/ayutthaya_12)、都が陥落したとき、火が壁を舐め、金は剥がされ、塔は崩れた。栄えたものが灰になる――この島が幾度も繰り返してきた弧が、ここにも刻まれている。
それでも、川は変わらず流れ続けた。塔の影を映し、雨季には水位を上げ、乾季には岸を遠ざけながら。崩れた煉瓦の隙間から、いま新しい漆喰が詰められ、傾いた仏が支えられている。失われたものを、なかったことにはしない。傷を抱えたまま、もう一度立たせようとする手がある。
夕陽が八つの尖塔の輪郭をふちどるとき、川に映るその姿は、四百年前の祈りと、今を生きる誰かの手とを、一枚の水面の上で静かに重ね合わせている。
遺跡名:
ワット・チャイワタナラーム(Wat Chaiwatthanaram)
建立: 1630年(プラーサートトーン王の治世)
建築様式:
クメール様式の中央プラーンと、それを囲む八基の小塔
所在: チャオプラヤー川西岸、アユタヤ歴史公園域
被災:
1767年のアユタヤ陥落により焼損・破壊、仏像の多くが頭部を失う
見どころ: 夕景に映える尖塔群、回廊の坐仏列、川面に映る影
地図:
古都アユタヤ マップ
公式サイト/Official Site:
Ayutthaya Historical Park (Fine Arts Department)
Photo: kaigraphick /
Pixabay (pixabay)