節くれだった手が、石を割っています。 ボロブドゥールの石を切り出し、運び、積み上げたのは、そういう手でした。記録には名前が残っていません。王の名も、設計を司った高僧の名も、わずかに伝わるのに、この壮大な伽藍を組み上げた何百、何千という手は、ひとつも名を残さずに消えていきました。…
節くれだった手が、石を割っています。
ボロブドゥールの石を切り出し、運び、積み上げたのは、そういう手でした。記録には名前が残っていません。王の名も、設計を司った高僧の名も、わずかに伝わるのに、この壮大な伽藍を組み上げた何百、何千という手は、ひとつも名を残さずに消えていきました。
彼らが扱ったのは、近くの川や火山がもたらした
安山岩。鉄の道具で切り出し、川を使って運び、人の背と縄だけで一段ずつ積み上げていったのです。接着剤はありません。石と石は、噛み合うように削られ、重さと精度だけで支え合っています。
およそ200万個ともいわれる石塊が、互いを押さえながら、千年を超えて立ち続けてきました。
レリーフを刻んだのは、また別の手でした。硬い石の表に、衣のひだ、波のうねり、菩薩の伏せたまぶた——指先ほどの繊細さを、 鑿の先で確かめながら彫っていく。一日に進むのは、ほんの手のひらほどだったでしょう。同じ場所を、何度も、何度も。
一日の終わり、鑿を置いた手は、石の粉で白くなっていたでしょう。名を残すためではなく、ただ手元の石と向き合っていた人がいる。その手の温もりは消えても、石の表面には、確かに鑿のあとが刻まれています。
名前のない手が、名前を超えて、まだここに触れています。
対象/Subject: ボロブドゥール寺院を築いた石工・彫工たちの仕事
建材/Material: 安山岩(火山岩)、接着剤を用いない積石構造
石塊数/Stone Blocks: 約200万個(推定)
建造時期/Period: 8〜9世紀、シャイレーンドラ朝
場所/Location:
ボロブドゥール寺院(中部ジャワ)
公式サイト/Official Site:
Borobudur Park
Photo: Rowan Heuvel /
Unsplash (unsplash)