夜明け前、霧がまだ低く流れる頃。ジャワ島中部の盆地に、ひとつの黒い影が横たわっています。山のようでいて、山ではない。なだらかに積み重なった石の段が、空の縁がほのかに白む方へと、静かに身を起こしていくのです。…
夜明け前、霧がまだ低く流れる頃。
ジャワ島中部の盆地に、ひとつの黒い影が横たわっています。山のようでいて、山ではない。なだらかに積み重なった石の段が、空の縁がほのかに白む方へと、静かに身を起こしていくのです。
これは
ボロブドゥール。
8世紀から9世紀にかけて、
シャイレーンドラ朝の人々が、二百万を超える安山岩の塊を、ひとつずつ運び、刻み、積み上げてつくりあげた仏教の聖地です。接着剤もなく、ただ石が石を支え合うだけで、千二百年ものあいだ崩れずに立ち続けてきました。
けれど、この石の山は、ずっと目を開けていたわけではありません。やがて近くの火山が灰を降らせ、密林が枝を伸ばし、土と緑がこの祈りの場をゆっくりと飲み込んでいきました。人々は去り、名も忘れられ、何世紀ものあいだ、それは森の下で眠る一つの丘にすぎなくなったのです。
この石が最初に積まれた頃、あなたから数えて何十代も前の祖先が、まだ見ぬこの島の空の下で生きていました。その同じ朝の光が、いまふたたびこの石の縁を撫でていきます。
頂へと続く道は、ただ石を登る道ではありません。巡礼者たちがここに刻んだのは、地上の世界から、心の高みへと昇っていく旅の地図でした。その地図は、千二百年の眠りを経てもなお、石の上に残っています。
さあ、石の山が、ゆっくりと目を覚まします。
正式名称: ボロブドゥール寺院遺跡群 (Borobudur Temple Compounds)
所在地: インドネシア・ジャワ島中部 マゲラン県
建立時期: 8〜9世紀 (シャイレーンドラ朝)
構造: 安山岩を積み上げた立体曼荼羅、約200万の石材
登録: ユネスコ世界遺産 (1991年)
地図:
ボロブドゥールの位置
公式サイト/Official Site:
Borobudur Park
Photo: Rowan Heuvel /
Unsplash (unsplash)